Exodus of Kampo

漢方薬の代替医療からの脱出

膵頭十二指腸切除術後の腹膜IL-9およびIFN-γ値に対する大建中湯(TJ-100)の効果は有意ではない

doi.org

【目的と背景】大建中湯は、炎症と消化管の運動性に影響を与える漢方薬であり、麻痺性イレウスの予防と治療に使用される。この研究は、臨床現場での膵頭十二指腸切除術(PD)後の、イレウスに関連するサイトカインであるIFN-γ/ IL-9の腹膜での値に対する大建中湯の効果を決定することを目的としている。

【方法】この研究は、術後の腸機能に対する大建中湯の効果を調査する臨床試験の補助的な研究であった。PD後1日目と3日目(POD1またはPOD3)に腹部ドレナージチューブを使用して180例から腹水を採取し、27種のサイトカインを測定するために使用した。いくつかの周術期変数と大建中湯 /プラセボの投与を使用して単変量および多変量解析を実行し、IFN-γおよびIL-9の値に対する大建中湯の効果を決定した。

【結果】腹膜のIL-9およびIFN-γの値は、POD 1と3の間で減少した(ウィルコクソン符号順位検定p<0.001)。多変量解析は、単変量解析の後に実行され、肥満度指数が22kg/㎡以上、年齢が高く、硬膜外麻酔の使用、およびIL-9とIFN-γのレベルと相関するより長時間の手術の患者を選択した。しかしながら、POD 1または3のいずれでも、腹水における大建中湯の使用とサイトカインレベルとの相関関係を検出できなかった。

【結論】大建中湯はPD後の腹膜IL-9およびIFN-γ値に影響を与えなかった。これは、PDおよび大建中湯投与後に腸機能の改善がないことを示す公表された臨床所見と一致していた。

CiteScore: 4.6 PMID: 33116743 PMCID: PMC7585168

抑肝散使用による偽アルドステロン症の危険因子:日本の医薬品副作用報告データベース(JADER)を使用した分析

doi.org

抑肝散は、認知症周辺症状やせん妄の改善が期待されるため、高齢者に一般的に使用されている漢方方剤である。しかし、その使用による副作用は高齢者で頻繁に報告されている。特に、抑肝散に含まれる甘草による偽アルドステロン症は、高血圧、低カリウム血症、筋力低下を引き起こし、死に至る可能性がある。この研究は、抑肝散の使用による偽アルドステロン症の危険因子を特定することを目的とした。日本の医薬品副作用報告データベース(JADER)で報告された症例を使用して、報告オッズ比(ROR)が計算され、比較されて、甘草を含む各漢方方剤の偽アルドステロン症のリスクが評価された。また、抑肝散を服用している患者の偽アルドステロン症の危険因子を分析した。抑肝散は、他の甘草を含む漢方方剤よりも偽アルドステロン症のリスクが高かった(ROR 2.4、95%信頼区間(CI)1.9-2.8;p<0.001)。さらに、抑肝散を服用している患者のロジスティック回帰分析の結果は、甘草の投与量(OR 1.5、95%CI 1.2-2.0; p<0.01)、高齢(<70歳、OR 5.9、95%CI 1.8-20;p<0.01)、認知症(OR 2.8、95%CI 1.6-4.9;p<0.001)、低体重(<50 kg、OR 2.2、95%CI 1.1-3.5;p=0.034)は偽アルドステロン症の危険因子であることをを示し、有意ではないが、ループ利尿薬との併用は、偽アルドステロン症のリスクを高める傾向があった(OR 1.8、95%CI 0.98-3.5;p= 0.059)。要約すると、患者は抑肝散の服用を検討する際の危険因子を理解し、消費する甘草の投与量を減らす必要がある。

Impact Factor: 1.863 PMID: 32999167

長期経管栄養後の日本人高齢者の経口栄養の回復:美山病院での挑戦

doi.org

【状況】日本では、経口で食物を摂取できない多くの患者は、長期間にわたって外部経管栄養を使用して管理されている。経管栄養は栄養管理には役立つが、患者の生活の質を大幅に低下させる。

【目的】高齢者の経管から経口摂取への移行に影響を与える要因を検討した。

【設定と設計】2018年1月1日から2019年12月28日まで実施された単一施設の後ろ向き予備的研究。

【方法と材料】美山病院で経管栄養を12か月以上行った後、経口摂取に戻ろうとした患者を募集した。14例(男性と女性の比率=6:8;年齢=83.9±2.6歳)が経口摂取を再開しようとした。患者の診断、経管栄養の期間、性別、嚥下反射時間、および広南スコアを調査した。嚥下反射が4秒を超える患者には、半夏厚朴湯が投与された。

【結果】14例のうち、7例はなんとか経口摂取を再開し(1群)、残りの7例は失敗した(2群)。 患者の2つの群間では、平均年齢、経管栄養の期間、嚥下反射時間、および性別に関して有意差を示さなかった。しかし、1群の意識レベルは2群の意識レベルよりも有意に高かった。

【結論】経口摂取を正常に再開した患者がより高い意識レベルだったことは、適切な意識を持つ患者では経口摂取を考慮すべきであることを示唆している。

PMID: 33110796 PMCID: PMC7586527

 

機能性ディスペプシアに対する六君子湯の効果:系統的レビューとメタ解析

DOI: 10.1111/jgh.15208

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

【背景と目的】機能性ディスペプシア(FD)は、上腹部の慢性的で原因不明の消化不良を特徴としている。従来の治療法では効果が不十分であるため、補完代替医療の需要が高まっている。六君子湯は、アジアでFDに広く使用されている漢方薬である。しかし、エビデンスが不足している。FDの治療における六君子湯の効果と安全性を評価するために系統的レビューとメタ解析を実施した。

【方法】2019年4月に、PUBMED、EMBASE、CochraneLibraryなどの電子データベースを検索した。研究がすべて適格であるには、六君子湯または併用療法(六君子湯および西洋医学)群を西洋医学群と比較する無作為化比較試験(RCT)でなければならない。主要評価項目は、総臨床効果率(TCE)とした。副次評価項目は、総消化不良症状スケール、胃内容排出率、ガストリン、モチリン、治療後6か月の再発、およびハミルトンうつ病評価尺度とした。

【結果】5,475例を対象とした52件のRCTが、この系統的レビューとメタ解析に組み込まれた。西洋医学と比較して、六君子湯はTCEが高く、有意に優れた結果を示した(相対リスク= 1.21、95%信頼区間1.17〜1.25、P<0.001)。六君子湯は、西洋医学と比較して、総消化不良症状スケールの減少がより多く、胃内容排出率がより改善され、治療後6か月の再発はより低かった。しかし、六君子湯群と西洋医学群の間でハミルトンうつ病評価尺度に有意差はなかった。併用療法は、西洋医学単独と比較して、TCEで有意な症状の改善をもたらした。

【結論】六君子湯とその併用療法は、FDの効果的な代替治療と見なされる可能性がある。さらに厳密に設計された高品質のRCTが必要である。

Impact Factor: 3.437

レビー小体型認知症のレム睡眠行動障害に対する抑肝散加陳皮半夏の有効性に関する予備試験

doi.org

【背景】クロナゼパム(CNZP)は、レム睡眠行動障害(RBD)の患者の約90%に有効だが、レビー小体型認知症(DLB)に関連するRBDの治療に使用すると、過度の鎮静、筋肉の弛緩、および認知機能への悪影響のリスクがある。抑肝散加陳皮半夏(YKSCH)は、ベンゾジアゼピン(BZP)と同様に、入眠潜時を短縮し、睡眠ステージ2を増加させるが、過度の鎮静、筋肉の弛緩、認知機能への悪影響などの有害事象を引き起こ差ない。これらの薬理学的特性を考慮して、YKSCHはCNZPの代替品として可能性があるか研究された。

【方法】2017年にレビー小体型認知症コンソーシアム(CDLB)によって確立されたDLBの臨床診断基準に従ってDLBと診断された患者のうち、レム睡眠行動障害スクリーニング質問票はカットオフスコア(5ポイント)以上、とアトニーのないレムであると睡眠ポリグラフで証明された連続した13例を、Neuropsychiatric Inventory(NPI)夜間行動障害、視覚アナログスケール(VAS)頻度、およびVAS重症度を主要エンドポイントとして観察した。研究を完了した11例からのデータを統計的に解析した。

【結果】統計的に有意な改善が、NPI夜間行動障害、VAS頻度、およびVAS重症度で観察された。重篤な有害事象は報告されていない。

【結論】結果は、過度の鎮静、筋肉の弛緩、または認知機能への悪影響を引き起こさないYKSCHが、CNZPの代替としてDLBに関連するRBDの新しい治療オプションを提供する可能性があることを示した。

CiteScore: 4.3 Impact Factor: 3.365

PMID: 32923452 PMCID: PMC7456844

ナブパクリタキセルとゲムシタビン療法患者の倦怠感に対する人参養栄湯の影響:前向き、単群、第II相非盲検、非無作為化、ヒストリカルコントロール研究

doi.org

【背景】人参養栄湯は、倦怠感、食欲不振、手足の冷えを防ぐために使用される。倦怠感は化学療法中に特によくみられる問題であり、生活の質と予定された治療の完遂能力に影響を与える可能性がある。

【目的】この前向き探索的試験では、切除不能膵臓癌に対するナブパクリタキセルとゲムシタビンの併用療法患者の倦怠感に対する人参養栄湯の有効性を評価する。主要評価項目は、ナブパクリタキセルとゲムシタビン療法の2コース中の、Functional Assessment of Chronic Illness Therapyの倦怠感スコアによる倦怠感の評価とした。副次評価項目には、用量強度の評価、Numerical Rating Scaleを使用した食欲不振、およびPatient Neurotoxicity Questionnaireを使用した末梢神経障害を含む。

【方法】この介入試験のデータを、評価項目の定義が同じである人参養栄湯を投与していない以前の観察試験と比較した(UMIN000021758)。 この研究では30例が必要とされた。

【結果】化学療法中の8週間にわたるFunctional Assessment of Chronic Illness Therapyの倦怠感スコアの閾値平均は5.3未満だった(P=0.002)。副次評価項目では、食欲不振または痛みの程度の特定のパターンは明らかでなかった。感覚/運動障害に関する患者のPatient Neurotoxicity Questionnaireに有意な変化は観察されなかったが、感覚障害のある患者の平均(SD)発生率は、第1週と第4週(4.8[0.96])よりも第5週と第8週(8.8[1.26])の方が高かった(P=0.003)。人参養栄湯の臨床的に重大な副作用は観察されなかった。

【結論】人参養栄湯は、切除不能膵臓癌患者のナブパクリタキセルとゲムシタビンによって引き起こされる倦怠感の症状を改善することに役立つ可能性がある。 UMIN臨床試験レジストリ識別子:UMIN000025606

CiteScore: 2.1 PMID: 33014206 PMCID: PMC7522496

転倒の危険因子として非GABA睡眠薬であるスボレキサント:症例対照研究と症例交差研究

doi.org

この研究の目的は、非ガンマアミノ酪酸(GABA)睡眠薬、スボレキサントおよびラメルテオンの使用に関連する転倒のリスクを調べることだった。この症例対照研究と症例交差研究は、東京都千代田区の九段坂病院で実施された。転倒した合計325例と性別および年齢が一致する対照の1295例を登録した。症例群の選択基準は、最初に転倒した入院患者であり、対照群の選択基準は、2016年1月から2018年11月の間に入院して転倒しなかった患者とした。投与された睡眠薬は、スボレキサント、ラメルテオン、非ベンゾジアゼピン系、ベンゾジアゼピン系または漢方薬に分類された。症例対照研究では、年齢、性別、臨床部門、転倒リスクスコアおよび入院期間をロジスティック回帰モデルで調整した。症例対照研究では、多変量ロジスティック回帰により、スボレキサント(オッズ比[OR]:2.61、95%信頼区間[CI]:1.29-5.28)、非ベンゾジアゼピン系(OR:2.49、95%CI:1.73-3.59)、およびベンゾジアゼピン系(OR:1.65、95%CI:1.16-2.34)の使用は、転倒のORの増加と有意に関連していた。しかしながら、ラメルテオン(OR:1.40、95%CI:0.60-3.16)および漢方薬(OR:1.55、95%CI:0.75-3.19)の使用と、転倒のORの増加との関連は有意ではなかった。症例交差研究では、スボレキサント(OR:1.78、95%CI:1.05-3.00)と非ベンゾジアゼピン系(OR:1.63、95%CI:1.17-2.27)の使用は、転倒のORの増加と有意に関連していた。同様のパターンがいくつかの感度分析で観察された。スボレキサントは転倒のORを増加させることが示唆された。この結果はさまざまな分析により揺るがないものである。この研究が非GABA睡眠薬スボレキサントにも転倒のリスクが存在することを示したため、睡眠薬は適切な評価の下で注意深く処方する必要がある。

PMID: 32916693 PMCID: PMC7486134