Exodus of Kampo

漢方薬の代替医療からの脱出

漢方医学ホットスポットの書誌学的分析と10年間の動向:2013-2022年

doi.org

【背景】漢方医学は古代中国で生まれた伝統医学であり、その後日本独自の医学として発展してきた。漢方医学は日本を代表する治療法の一つであり、近年数多くの論文が発表されているが、現在の漢方医学研究のホットスポットやトレンドに関する情報は不足している。この書誌学的分析では、漢方医学の最新の研究ホットスポットとトレンドを調査した。

【方法】漢方医学に関する論文をWeb of Science Core Collectionから検索した。漢方医学に関連する医学主題見出しを使用し、2013年から2022年までの論文を検索した。検索された論文は、CiteSpace、VOSviewer、SCImago Graphicaを用いて、漢方医学に関連する国、著者、雑誌、文献、キーワードを分析した。

【結果】合計1,170の論文が含まれた。漢方医学関連の論文数、被引用数は、主に日本から最近増加している。最も多くの論文を発表したのは小川(落合)恵子氏(40編)であり、被引用回数が最も多かったのは加瀬義男氏(663回)であった。共著者の中では、河野透氏が最も被引用数が多く、総リンク強度も最も高かった。投稿数が最も多かったジャーナルは、Evidence-based Complementary and Alternative Medicineであった。包括的なキーワードと文献分析により、以下の研究ホットスポットが明らかになった: "抑肝散と認知症の行動・心理症状"、"人参養栄湯と高齢者医療"、"大建中湯と消化器がん術後"、"六君子湯と機能性ディスペプシア"。また、補中益気湯とCOVID-19との関連を明らかにすることで、新たな研究のフロンティアを見出した。

【結論】本研究の結果、漢方医学研究のトレンドが明らかになり、特定のホットスポット、研究インパクトの大きい著者や出版物が明らかになった。本研究のように、大量の文献データを収集し、研究のインパクトを分析し、研究のホットスポットを特定することは、研究者に漢方研究の将来の方向性を提供することになるだろう。

PMID: 37932994 PMCID: PMC10627683 Impact Factor: 1.817​

治療抵抗性統合失調症患者に抑肝散を12週間投与した多施設共同二重盲検無作為化比較試験

DOI: 10.1002/pcn5.155

【目的】統合失調症患者を対象に、抑肝散の有効性と安全性を検討するため、12週間の二重盲検プラセボ対照多施設共同試験を実施した。

【方法】抗精神病薬に抵抗性を示し、PANSS(陽性・陰性症候群尺度)得点が5点以内で安定している統合失調症患者を登録し、抑肝散群とプラセボ群に割り付けた。61例の同意患者のうち53例が抑肝散群(n=27)とプラセボ群(n=26)に割り付けられた。

【結果】12週時点のPANSS総得点および陽性得点の変化は、抑肝散群でプラセボ群より有意に大きかった。その他の精神症状評価得点については両群とも有意な変化はみられなかった。副作用は、抑肝散群で27例中6例(22.2%)、プラセボ群で26例中5例(19.2%)に認められ、いずれも重篤なものではなかった。

【結論】抑肝散は非常に安全であり、西洋医学との併用で統合失調症の治療薬として臨床的可能性がある。

消化器癌手術後のせん妄予防を目的とした抑肝散の前向き無作為化試験

doi.org

【背景】漢方薬である抑肝散は術後せん妄に有効である可能性がある。しかし、この考えを支持する十分な証拠はない。本研究では、消化器がん術後のせん妄予防に抑肝散が有効であるかどうかを前向き無作為化試験により検討することを目的とした。

【方法】二重盲検無作為化比較試験である。2017年5月から2019年12月の間に手術を受けた75歳以上の患者を、抑肝散群と安中散(別の漢方薬)群に無作為に割り付けた。手術前日から術後3日目まで、割り付けられた薬を経口摂取する治療を受けた。その後、術後せん妄の発生率を比較した。精神科医が術後せん妄の有無を診断した。

【結果】本研究には77例が登録され、全解析対象は68例であった。68例中25例(36.8%)に術後せん妄がみられた。具体的には、対照群で13例(37.1%)、抑肝散群で12例(36.4%)が術後せん妄と診断された。しかし、その結果は両群で有意差はなかった。また、せん妄の重症度にも顕著な差はなく、薬剤と相関する有害事象も認められなかった。

【結論】抑肝散は消化器癌手術後のせん妄予防には無効であった。

PMID: 38028268  PMCID: PMC10674061 Impact Factor: 1.0

漢方薬(防風通聖散)による薬剤性膀胱炎

DOI: 10.1016/j.eucr.2021.101644

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

漢方薬の一つである防風通聖散は、肥満症やメタボリックシンドロームで注目されている。今回われわれは、70歳女性における8年間の防風通聖散使用によるアレルギー性膀胱炎を報告する。症例は3ヵ月前から無菌性膿尿を伴う排尿痛を呈した。膀胱鏡検査でびまん性尿路上皮紅斑と浮腫を認めた。尿細胞診では、好酸球の増加を認めた。防風通聖散を中止したところ、膀胱炎の症状は4日後に消失し、尿検査も正常化した。医師の承認を得ずに防風通聖散を再開すると膀胱炎の症状が現れ、中止後は症状が急速に沈静化した。これは、アレルギー性膀胱炎と漢方薬を関連づけた最初の英文症例報告である。

CiteScore: 0.8 Impact Factor: 0.5

造血幹細胞移植患者における口腔粘膜炎予防のための半夏瀉心湯:無作為化第II相試験

doi.org

【目的】口腔粘膜炎(OM)はがん治療に伴う副作用である。漢方薬である半夏瀉心湯はもともと下痢、胃炎、口内炎の治療に処方されていた。胃がんや大腸がん患者の化学療法によって誘発されたOMに対する半夏瀉心湯の効果については、いくつかの報告がある。本研究では、造血幹細胞移植(HSCT)を受ける患者において、OMの予防に対する半夏瀉心湯の効果を検討した。

【方法】2020年7月から2021年12月にかけて、同種移植を受ける予定の患者30例を登録した。無作為に2群に割り付け、1日3回、半夏瀉心湯を生理食塩水に溶解したものを使用するか、生理食塩水のみを使用して口腔内を洗浄するよう指示した。観察期間は移植前処置の開始日から生着日までとし、主要評価項目はOMの発生率とした。

【結果】18例がOMを発症し、最も重篤なものはグレード(G)3であった。半夏瀉心湯群と対照群との間でOMの発生率に有意差はなかった。しかし、半夏瀉心湯の使用期間とOMの期間との間には負の相関が観察される傾向があった(G2-3:P=0.027、G3:P=0.047)。

【結論】本研究では、半夏瀉心湯の使用はOMの発症を明確に抑制しなかったが、OMの増悪を抑制する傾向を示した。しかし、造血幹細胞移植を受けた患者におけるOMに対する半夏瀉心湯の効果を十分に理解するためには、さらなる研究が必要である。

PMCID: PMC10657322 Impact Factor: 3.1

高齢者肺炎入院患者における抑肝散と抗精神病薬との併用投与の有効性と安全性

DOI: 10.1111/ggi.14696

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

【目的】高齢の肺炎入院患者では、行動・心理症状やせん妄がしばしばみられ、入院期間の延長に関連している。日本では、せん妄や行動・心理症状の治療に抑肝散と抗精神病薬がしばしば用いられている。そこで本研究では、高齢の肺炎患者を対象に、抑肝散と非定型抗精神病薬の併用投与の有効性と安全性を評価することを目的とした。

【方法】日本のDiagnosis Procedure Combination入院患者データベースを用いて、肺炎で入院した高齢患者(65歳以上)のうち、入院後3日以内に抗精神病薬を投与された患者をレトロスペクティブに同定した。患者を非定型抗精神病薬単独投与群(対照群)と非定型抗精神病薬と抑肝散の併用投与群(抑肝散群)の2群に分けた。入院期間、院内死亡、骨折、カリウム製剤の投与について、傾向スコア重複加重を用いて2群間で比較した。

【結果】抑肝散群4,789例、対照群61,641例。傾向スコアの重複重み付け後、入院期間は抑肝散群で統計学的に有意に短かった(パーセンテージ差-3.0%;95%信頼区間-5.8%~-0.3%)。カリウム製剤を投与された患者の割合は抑肝散群で高かった(オッズ比1.34;95%信頼区間1.15~1.55)。院内死亡と骨折に有意差はなかった。

【結論】抑肝散と非定型抗精神病薬の併用は、肺炎と攻撃的な精神症状を有する入院高齢患者に対する妥当な治療選択肢となりうる。

Impact Factor: 3.3